『ちくま文学購読初級編』
2021年9月5日初版第一刷発行の『ちくま文学購読初級編』に大正時代の尾花座の写真が掲載されました。志賀直哉『清兵衛と瓢箪』の中で、「武士道を言うことの好きな」教員が、「雲右衛門が来れば」「新地の芝居小屋に四日の興行を三日聴きに行く」という文章がありますが、ここで大正時代の芝居小屋を開設する写真として採用されたものです。
ご承知のとおり、志賀直哉は昭和4年から9年間奈良に住まいました。日記が残されており、尾花座で『浅草の灯』をご覧になったことが記されているのです!少なからずご縁を感じ、喜んで掲載のお手伝いをさせていただきました。
この教材は来年度から高校一年生の国語の授業で文学教材を補うための副読本として企画されたものだそうです。その背景には来年度からの新しい学習指導要領では現代小説の頁数が著しく減ってしまうという状況があるのだとか。
はしがきの監修者の言葉がとても印象に残りましたので引用させていただきます。
現在の「国語」改革においては、ともすれば「情報」「論理」「実用」といったタームが1人歩きし、「文学」をこれらと区別する傾向が強まっています。しかし、そもそも「文学」は世界の成り立ちを根本から考えていく「人文知」の根幹をなすものであり、また、小説の読解はあらたな世界観や自己とは異質な他者の存在を理解していく上で、きわめて重要な役割を果たすものです。情報化社会を生きていくためにこそ、こうした知恵や想像力が求められるわけで、本書を通し、個々の「情報」の持つ意味を自身の目で吟味し、うわべの功利的なものの見方に惑わされない、奥深い知性を身につけていっていただきたいと思います。本書がそのための強力な“援軍”になってくれることを願ってやみません。
深く深く首肯いたします。この教材を手に取られる大勢の高校一年生の皆様が「文学」と対峙する奥深く心豊かな時を過ごされますことを祈ります。